やっちまった。
本日2回目のミスコースだ。
静馬商店、とっくに過ぎとるじゃんか。
がくんと力が抜ける。
ああ、またやってしまったのか。
どうやらさっき通り過ぎた集落か。
「すまんケーキさん!通過チェック取り過ぎた!」
冷え込む中国山地の山中。
オヤジの声が悲しげに響き渡る。
うううう。なんてこった。
「まだ間に合うかもしれないです。戻りましょう」とケーキさん。
崩れ落ちそうになる心が、その一言で持ち直した。
「行きますか」
きびすを返し、今下ってきた林道に戻る。
つづら折りの道を上る。
路面に見覚えのある木切れが落ちている。
小さな峠を越え、しばし下って林道を抜けた。
集落が見えた。
三差路を右手に入る。
さっきはここを見逃していた。
自販機の明かりが見える。
そうここだったのだ。
時刻は午後10時。
242キロ地点の通過チェック静馬商店に到着した。
時速15キロで計算した想定締め切り時刻は午後10時10分。
もちろん通過チェックなので締め切りは設定されていないが。
この時点での貯金は10分か。
厳しい。実に。厳しい。
たちまち撮影。
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ここはまじめに撮ったよ。 |
温かい缶コーヒーを1本飲んで、再び走り出す。
ともかく進むしかない。
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ケーキさんも撮影 |
ログによると、このミスで6キロほど余分に走り、貴重な30分間を浪費していた。
せっかく試走したのに、肝心の店舗まで確認していなかった。
わしの二重の不手際だ。
見覚えのある道を走り出す。
お社の前を過ぎて左折。
一度走った道は、短く感じるのが幸い。
林道を上る。
ん。
右目の視界に違和感のあるものが飛び込んだ。
黒っぽい物体に鮮やかに浮かび上がる白い文字。
なんじゃろ。
自転車を止めて確認する。
枯れ葉が降り積もる路肩にそれはあった。
黒い円筒形のスタッフザックと「TIOGA(GIANTだったか?)」の白抜きのゴシック文字。
そうブルベエ御用達アイテム、輪行袋ですわ。
こんな山奥の道に落としていくとは、先行するブルベエさんの誰かに違いない。
拾い上げる。
「よく見つけましたねえ」とケーキさんが驚いていたけど、君も手袋みつけたじゃないか。
われらギリギリ隊、殿軍としての務めは十二分に果たしたな。
輪行袋をサドルバッグに突っ込み、再スタート。
先ほどの引き返した地点を過ぎる。
しばらく走ると国道186号に合流した。
おなじみドライブインがある交差点ね。
国道186号を加計方面へ。
ああ、このまま走ると広島だよね~。
左折して県道40号線の石見街道へ。
道路標識が闇に浮かぶ。
直進すると「可部」と言っておる。
え、可部?
可部といえばケーキさんの住まう場所。
ほんまに行けるの?
疑問に思いつつも、そのまま直進。
思えば、これが大きなフラグだったのか…
なだらかな山里を行く。
この辺りから霧のような雨が降ってきた。
Volt1700が照らす光芒の中に、水滴が光ってチラチラと舞う。
がっつりとした雨ではないが、気になってきた。
上半身はジャケットを着ているが、下はビブにレッグウオーマー。
レインパンツをはくか。
どこぞの店舗の駐車場に滑り込み、雨具を着込む。
石見街道を離れ、大朝方面へ。
山越えが始まる。
八幡高原周辺も寒かったが、標高を上げていくのでこの辺も寒い。
ただ上りなのが救い。
ようやくピークへ。
大朝方面への下りが始まる。
そう。この下りがまた長く、そして寒かった。
大谷川沿いを下っていく。
途中、工事区間があり、信号で強制ストップに。
そして見覚えのある管理釣り場の横を過ぎる。
ひたすら我慢の時間だ。
周囲が開けて、だんだん斜度が緩くなる。
ひたすら我慢。
ただただ耐える。
交差点で自転車を止めてケーキさんが追いつくのを待つ。
お、きたな。
大朝の町の手前で右折する。
再びゆるやかな上りが始まる。
先日、下見に来たときは、田原温泉にすぐ到着したのだけど自転車ではそうはいかない。
再び我慢の時間。
下って我慢。上って我慢。
この時間、走り続けることはいずれにせよ我慢しかない。
そろそろ眠気も忍び寄ってくる。
しかし、晩秋の中国山地の山の中、休めるところなんぞない。
ひたすら耐えて走るだけだ。
前方に田原温泉の灯りが見えた。
時刻は午後11時半を過ぎている。
古い学校を利用した宿泊施設から暖かそうな灯りが漏れている。
下見の時はここで露天風呂につかってのんびりしたっけなあ。
いまは寒さに震えながら、横目で通り過ぎるしかない。
さよなら田原温泉。
また来るよ。
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昼間の田原温泉。バイクラックもありました(下見時) |
民家が尽きる。
両側に山が迫る。
巨大な霊園の入り口を過ぎると、それまで2車線だった道が1車線に絞られる。
峠区間の始まりだ。
と、左手の薮の中で、がさとうごめく獣が。
イノシシだったか、シカだったか。
しかとは記憶にない。
谷沿いの細い山道を下る。
ぐねぐね。
スピードは出せないし、出さない。
慎重に慎重に。
ようやく山道が終わり、山里に出る。
周囲に田畑があり、開けているだけで安心する。
国道433号だ。
3桁とはいえど一応は国道。
ひたすら夜の道を進む。
眠気と寒気。
周囲に休めるところはないし、休んだらタイムアウトは必至だ。
ひたすら進むしかない。
次のPCは286キロ地点だったかな。
余分に走っているので、もうガーミンは286キロ以上を表示している。
仕方ないとはいえ、徒労感が・・
千代田の町が近づいてきた。
高速道路の高架をくぐる。
PCではないが、コンビニがある。
おお、イートインもあるんじゃ。
暖かそうな、非常によさそうな空間じゃな。
PCじゃないのでしょうがなく過ぎるけど。
田舎道なのだが、中国道のICが近いので、この辺は工場が多い。
工場の建物から漏れる灯りが心の支えだ。
ようやく千代田の中心部だ。
信号がある交差点を左折。
見覚えのある風景。
もう少し行くと千代田ICがあり、道の駅がある。
そして左手にコンビニが。
PC3だ。
日付をまたいで10月28日午前0時半過ぎ。
286.59キロ地点、PC3のセブンイレブン千代田インター店に到着したのだった。
店内に入り、買い物をすます。
レシートの打刻時刻を見る。
午前0時35分。
締め切りが午前1時8分なので、貯金はわずか33分しかない。
考える。
これから明け方へ向けて寒さもっと厳しいよね。大丈夫なん?
考える。
貯金30分しかないし。この疲れ具合、眠たさ加減だったら1時間は最低眠らないと。
じゃないとダメでしょ。大丈夫なん?
考える。
三次まではええよ。こっから下り基調だし。
でもその後はどうなん。
東城の山越えだよ。
その後も神石はアップダウン祭りだよ。
わしらの脚力で間に合うん?
考える。
ここ千代田だよね。
ちょろ~~とちいさな峠越えて下れば、可部だよね。
ケーキさんの家があるよね。
ホットな風呂に入って、布団にもぐって人権ある夜を送れるよね。
ケーキさんもええよって言ってくれてるし。
ね、ほんまにええのん?
考える。
仮に三次まで行ったとしようか。
こなき氏みたくコインランドリーで休養して、その後そこで寝込んだらどうなん。
広島まで帰ろうにも芸備線、豪雨被害で止まっているよね。
輪行で帰れないよね。大丈夫なん?
で、ケーキさんはどうなん?
「わしはSRもかかっていないし、たっかんさんに任せます」
ぬ、ぐぐぐぐぐ。
う、ぐぐぐぐぐぐ。
と、こんな真夜中なのに、AJ広島代表のK大先生が見回りにきてくれた。
ほんまにこの人ときたら。
仕事やらなんやらで大変なのに。
なのに、車で回ってくれる。
ほんまにありがたいことじゃのう。
決めた。
ここで終わりにしよう。
DNFだ。
残念だけど。
大先生に伝える。
スマホをいじってこなき氏にも連絡を入れる。
うおおおおおおおおおおおおおおおお。
ま、これが実力よね。
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オオオオオオオノオオオオオ!(撮影・K大先生に頼んだ) |
是非もなし!
つづく。
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