2018年6月24日日曜日

BRM501広島600km須波・徳島はDNF その6(真夜中の剣山ダウンヒル編)

標高1400メートルの山の上に午前1時。
しかも自転車のサドルにまたがっている。
なかなかありえない状況ではないか。

ということでDNF記念にいろいろ写真を撮っちゃうわしら。
オーノー!

こっちもオーノー!

峠のトンネル前で

もともと剣山はフォトチェックの場所だったしね。
間に合わないと分かっていつつ、山頂まで上ってきたのには訳がある。

エスケープルートが山頂からしかないのだ。
決められたルートをそのまま進むか。
それとも国道438号を北方面へ下山するか。
二つに一つ。
ここは人里により近いと思われる北方面一択で。
それでも、ふもとのつるぎ町まで40キロ以上ある。
まじかよ、40キロずっと下り坂ってこと?
気が遠くなる。

その前に下山の準備をしなくては。
ピークからちょっと下ったところに立体駐車場があったので、そこに避難する。
風は通るが、野ざらしよりましだろう。
ふもとではパラついたものの、雨は降っていないのが幸い。
と、下から光が上がってきた。
さきほど抜かしたサクさんだ。
サクさんも北へエスケープするとのこと。
ならば暗い夜道。
旅は道連れ。
ライトが多い方が明るさも増す。
一緒に下りましょうよ。
サクさんは下ったところにある駅から輪行するという。
それいいですねえ。
大人の選択ですねえ。
が、ケーキさん「輪行袋持ってきてません」。
え、君今何て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

どうりでオルトリーブのサドルバッグだけで済んだはずだ。
ま、ないものはしょうがない。
この1400メートルの土地に輪行袋が転がっているはずないし。
降りてから考えるとしましょう。

汗に濡れたジオラインを脱ぎ、着替える。
この時のために持ってきたのだ。
再び身支度を調える。
ダウンヒルのために再び雨具を着込む。
テムレスも着用。
フル装備だ。

山上だが、宿があり、暖かそうな光が灯っている。
正直、あそこで泊まって休みたい。
でも予約していないし、こんな時刻に行ってもただの不審者。

午前1時過ぎ。
さあ生きましょう。
じゃない、行きましょう。
決死隊、真夜中の逃避行へ

3人で走り出す。
分かれ道を過ぎて、しばらく行く。

剣山山頂への登山口があったかな。
国道438号の下り坂が始まる。
ここからだ酷道が本当の牙をむいたのは。

右へ曲がる。
左へ曲がる。
路面が悪い。
前ホイールが暴れる。
ハンドルが震える。
激しい振動が手元に伝わる。
腰を浮かして振動をいなす。

また右へ曲がる。
左へ曲がる。
右へ曲がる。
左へ曲がる。
右へ曲がる。
左へ曲がる。

ライトで照らされる限られた視界の中に、同じ風景が繰り返される。
また同じ景色。
同じリズム。
いつまでも終わらない奈落への下り坂。
曲がっても曲がっても続くカーブ。
わしは無限ループの中に入ったのか。
永遠に続くとも思われる時間。
時折、高度に目をやるが、全然減らない。
本当に下りているのか。

手が疲れてきた。
ずっとブレーキを握っているので、握力が続かない。
ケーキさんとサクさんに合図して止まる。
眠気もあるし。
サドルにまたがったまま、ひと息入れる。
「2,3キロごとに休みますので」
DNFしたので時間は気にしなくていいしね。
二人に伝える。

また下りが始まる。
同じ風景のリピートかと思いきや、時折、シカの姿が浮かび上がる。
わしらに驚いたのか、慌てた様子で斜面を駆け上がっていく。

飛び出してくるなよ~
内心祈りながらそばを通る。
当たったら、そこで終わりじゃよ。
幸い道路上に飛び出してくることはなかった。

眠気覚ましに声を上げる。
「段差!」とか「石ころ!」とか。
少しましになる。
後方のためというよりか、自分のために。

これを10回近く延々と延々と繰り返す。
途方もない作業。
ようやく標高が下がってきた。
まったく信じられない下り坂だ。
四国半端ないって(流行語)
下り始めてから2時間近く経過した。
1.5車線だった道も多少はましな広さになっている。
午前3時半過ぎ。
トンネルがあった。
歩道が結構広い。
もう耐えられない。
スローダウンして、自転車を止める。
「休みましょう」
ケーキさんとサクさんに伝える。
明るく乾いた素敵な歩道に退避

乾燥したトンネルなので、直接横になっても問題ない。
気を失う。
・・・・・
気を失うケーキさん

20分ほど休んだか。
STRAVAのログを見返すと、山頂から約25キロ。
306キロ、標高250メートルの地点だったようだ。
また走り出す。

右手に自販機発見。
ドリンク休憩。
温かい飲み物が染みる。

また走り出す。
左手に渓流。
斜度はそれほどでもなくなった。

おや、後ろの二人が止まっている。
確か、ケーキさんのボトルケージが外れたのではなかったか。
暗闇で手さぐりで修理するがうまくできない。
どうやら根元からボキっといったらしい。
路面の振動が激しかったせいだろう。
ほんま酷道、半端ない。
修理するケーキさん。携帯工具なので締めにくい

トンネルから小一時間下っただろうか。
ようやく坂が終わった。

午前4時過ぎ。
家々の明かりが見えてきた。
人里だ。
生きて帰れた。
安堵する。
川の流れも緩やかになってきた。

橋を渡る。
右手に線路がある。
町がある。
駅への看板を見つけた。
午前4時過ぎ。
須波から317キロ。
JR徳島線の貞光駅に到着したのだった。
文明への入口。ただしサクさんだけ

まだつづく。

2018年6月21日木曜日

BRM501広島600km須波・徳島はDNF その5(PC2からDNF編)

どうも、たっかんです。
梅雨ですなあ。
そうそう。
BRM609広島400km岩国・角島とBRM616広島300km徳山・竹田津、完走してきましたよ。
2週連続で山口の道を存分に楽しんだのだった。

というところで、600ブルべの振り返り、さらに続けます。
午後4時48分、192.11キロ地点のPC2ローソン土佐町田井店に到着。
貯金は10分減って2時間ちょうどになった。
夜に向けてエネルギーを貯めておきたい。
ここはがっつりとラーメンをいただく。
エナジーの源

他のランドヌールと話していたら、どうやらわしらがほぼ最終集団のようだ。
わしたちの後に来たランドヌールは、体に限界が来たらしい。
「ヒルクライムが無理なので、山岳には挑戦せずもう少し走ってからDNFします」とおっしゃる。
お疲れ様でした。
モグモグタイム

思えば、これが賢明な判断だったのかも。
でも賢明でない、わしらは当然挑戦するよねえ。
やってみなけりゃ見えないものもある。


で、チャリにまたがって走り出すわけだ。
先の見えない闘いのヤマ場へと。


まずは吉野川沿いの国道439号をしばし下る。
時刻は17時過ぎ。
そろそろ日が傾いてきた。
大豊町でトンネルを抜け、国道32号に入る。
のどかな川沿いの快走路

吉野川を渡る。
国道32号を離れ、国道439号に入る。
世に名高い酷道ヨサクである。
踏切を越える。
踏切通過!

もう一つ橋を渡るといよいよ登り口。
あわれな子羊参上(撮影・Tさん)


今回のコースを引いたT前代表がうれしそうな顔で出迎えてくれた。


どうやらわしらがオンルート上の最後尾らしい。
さすがヘンタイが集う600。
2時間貯金でこれか・・
この先を思うと気が引き締まる。
AJ広島ギリギリ隊の意地を見せよう。
登り口右手にある商店はすでに閉まっていたので、自販機でドリンク補給。
ここからが本番。ここでDNFが正しかったか?(撮影・Tさん)


目の前にいきなり急坂。
そして看板に「京柱峠18キロ」の表示が。
なえるな~。
まじか18キロ!(撮影・Tさん)

こっからずっと18キロ上りかよ。
しかも標高1130メートルまで上がる。
これが四国クオリティ。


時刻は午後6時30分。
さあ、お楽しみの始まりだ!


上りが始まる。
斜度は5%前後。
きつくもないが、ゆるくもない。
それが延々と続く。
心拍は130前後。
時速は10キロ前後か。
それが続く。


道は狭い。
ただ対向車が来ることがほとんどないので、ストレスは感じない・
右下から谷に流れる水音が聞こえる。
次第に空が光を失ってきた。
雲がかかってきた。
星や月は見えない。


ふもとで気温は18度ぐらいだったが、次第に下がってくる。
ただ一定の負荷をかけ続けているので、寒さは感じない。


ただただ走る。
いや、走ってはいないな。
前進しているだけだ。
前へ動いているだけだ。


午後7時半、上り始めて1時間が経った。
1時間も上りっぱなしって。まじか。
そろそろ一息いれるか。
真っ暗じゃのう


右手に路肩が広いところがあったので、足を止める。
むすびを食べる。
いこいのひととき

周囲は植林されたらしい針葉樹林。
右手下からやはり渓流の音。
7,8分休んでまた走り出す。


真っ暗な道。
延々と上り続ける。
中盤以降は斜度がじわじわと増してくる。
速度が落ちる。


そして我慢すること約2時間。
午後8時半、ようやく着いた。
京柱峠のピークに。
標高1133メートル。
標高1133メートルとか・・

気温は10度までに下がった。
かなり消耗した。
幸い水場があったので、一休みする。
歓迎を受けた


昼間なら眺望が楽しめたのであろうが、闇の中を風が通り過ぎるだけ。
下の方に小さな光が見えた気がする。
闇に浮かぶジャケット


下りに備えて、ジャケットを羽織る。
手袋も指切りから春秋用のフルフィンガータイプに変える。
さあ、暗闇のダウンヒルの始まりだ。

が、道が悪いわ。
前が見えにくいわ。
曲がっているわ、でスピードが上がらないことこの上ない。
ふつう下り坂はボーナスステージなのに、この道はあかん。
平均時速20キロほどしか出せない。
借金を全然返せない。
これはしんどいわ。


ひたすら山道を下る。
ところどころに家があり、自販機があったりする。
われらのオアシス

暖かさをありがとう。

温かい缶コーヒーのありがたさと言ったら。
45分間ぐらいは下り続けたか。
ようやく下り坂が終わった。


そして集落の中を縫って走る。
交差点がある。
暗闇の中に「剣山27キロ」と看板が浮かび上がる。
げ、京柱によりさらに長いのか。
まあ標高1300メートル以上あるから高いしね。
正直うんざりする。
ぽつぽつと小雨が落ちてきた。
トンネルがあったので、雨具を着ることにした。
トンネルはいいとこだ

これから雨らしいし、厳重な装備で。
手にはテムレス。
雨具を上下とも着て、シューズカバーも装着する。
シューズカバーの下には、ポリ袋をかぶせている。
これで大概の雨が防げるのは実証済みだしね。
ポリ袋を履いてシューズカバー。足下はばっちり


さあ進もう。
時刻は22時。
上り坂がまた始まる。
不安がよぎる。
本当に間に合うのか、と。


上る。
漕ぐ。
上る。
漕ぐ。
ひたすらの繰り返しで、高度を上げていく。
序盤はそれほどの斜度ではない。
しかし、上りがひたすら続くのは、足にも心にもダメージを貯めていく。


どれほど上がっただろう。
集落があった。
住宅の軒先には布製の等身大のかかしがたくさん飾られている。
広島で言うと、湯来の奥のほうの集落であるのと似たやつね。
いったいいくつあるのやら。
体が疲れ切って、感性がすり減ったわし。
もはや写真を撮る気力もない。
無感動に通り過ぎていく。


わしのeTrex20 には、グロスの平均時速を表示できる。
ブルベは時速15キロとの戦いなので、休みも含めて時速15キロを維持していれば大丈夫なのだ。
その数字がどんどん時速15キロに近づいていく。
間に合いあわないかも。
いや間に合わないか…
弱気がじわじわと心を支配していく。


途中、自転車を押して歩いているランドヌールと出会う。
声を掛けて上っていく。
互いにがんばりましょう。
てか、がんばるしかないですね。


ケーキさんと二人、暗闇の中をだらだらと上がる。
呪詛を吐く元気さえ失せた。
と、闇の中に浮かび上がる看板。
「奥祖谷かずら橋」とある。
「いや~来てみたかったんですよ。記念写真撮ってください」
ケーキさんが止まって「ちょっと見たい」という。
23時半。
1時間以上こぎ続けると、疲労がたまる。
自販機もあるので、一息入れる。
ケーキさん、昔からここに来たかったらしく、感激していた。
が、いかんせん周囲は真っ暗で何一つ見えないという・・・
どこにあるのか、かずら橋


走り始める。
ケーキさんの方が元気が残っているのか、次第に置いていかれる。
道ばたから小動物が飛び出してきた。
珍しい、うさぎだわ。


すでに標高は1000メートルを超えて久しい。
さらに上る。


eTrexの平均時速がついに15キロを割り込んだ。
ああ、だめだったか・・・。
剣山を越えても、さらに700メートル級の峠が二本待ち受ける。
道の悪い下りでは、挽回できない。
上りではなおさら。
となると、次のPC3に制限時間内で入るのは難しい。
万策尽きた。


でも進む。
進むしかない。


じわじわと闇の中の道を進む。
そしてついに着いた。
剣山のピークに。
278キロ地点。平均時速14.8キロ。万策尽きた


午前0時45分過ぎ、278キロ地点。
eTrexの指し示した標高は1421メートル。
先着していたケーキさんとDNFを決断する。


お疲れさまでした。
お互い、ようやりました。
だが、わしらの力が及ばなかった。
四国の山々には太刀打ちできなかった。
ただそれだけだ。
剣山登山口で、うなだれるわし


掲示板にDNFの書き込みをしてもらう。
わしらの挑戦はひとまず終わった。
だが旅はまだまだ終わらない。
帰らないといけない。
本当の苦労はここからだった。

つづく。